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マセラティクアトロポルテと暮らしてみませんか~ガンディーニの疾駆するオブジェ:エンジンについて⑧ インタークーラーツインターボへの道程

 前項までに「DOHC4バルブ」の部分までだいたいの説明はいたしましたが・・・、ここまで長かったですね。相当ハードな分量の文章を、エンジンの基本的な説明と由来に費やしてしまいました。 しかし、ビトルボマセラティのV型エンジンについて、マクロな視点から周辺をも眺め、重箱のスミをつつくミクロの視点まで、初めてマセラティを知るヒトにも興味をもって頂けますように、頑張って書いてまいりました。 本項で一旦エンジン周りの概論はシメさせて頂きます。おヒマな方は、このコーナーの始めから読み返して頂きますと、ガンディーニのクアトロポルテについての理解が、その周辺文化や歴史も含めて、 より一層深まると思いますので、お試しくださいね(・・・って、そんなヒマ人いる?)。

 さて、本項はエンジンスペックを基にした説明も大詰め、ガンディーニ・クアトロポルテのエンジンスペック、「水冷90度V型6気筒(8気筒)DOHC4バルブ インタークーラー付ツインターボ」の中から 「インタークーラーツインターボ」、いってみましょう。

 現在、俗に「ターボ」と呼ばれているものは、日本語でいうところの「過給機」の一種で、内燃機関(エンジンなど)がその着火爆発工程の次で必ず発する「排気」を再利用して、エンジンそれ自体の基本的構造には それほど大きく手を加えずに出力を増大させるメカです。

 これは、基本原理自体はそうとう旧いものなのですが、自動車用というよりは、むしろ航空機用として、高高度上昇用の大馬力エンジンを手っ取り早く作るための方法論の一つとして、航空技術の世界では 「排気タービン式過給機」と呼ばれ、早くから発展してまいりました。

 ガンディーニのクアトロポルテはもちろん、ビトルボマセラティに代々採用されてきたタービンユニットは、石川島播磨重工業製、現在の株式会社IHIが供給しておりました。このIHIという会社、幕末以来の歴史 (150年以上!)を誇る、まあ、とってもリッパな会社なんですが、その前身たる、東京石川島造船時代は、ちょうど第二次大戦中にあたり、国産初のジェットエンジンの製作(これは極めて高度なタービン製造技術を要する) を、当時の海軍航空技術廠(空技廠)の依頼に基づき成功させた実績があり、そのタービン製造と整備の技術は現在でも、ボーイングその他のジェット旅客機に搭載されている、エンジン重整備の委託事業などに引き継がれております。


番外コラムその1:
 第二次大戦中、すでに我が国でもジェットエンジン航空機の実機飛行実験には成功していた!

 その国産初のジェットエンジン誕生の経緯は、つとに有名ですが、ご存じない方のために、ここに簡単に御紹介いたしましょう(えっ?聞きたくない?まっ、そー云わずに)。
 第二次大戦も後半に差し掛かり、同盟国たるドイツ軍はヨーロッパ戦線のあちこちで連合国より補給路を絶たれ、最前線で物資が枯渇する事案が逼迫しておりました。一方、我が国の方も、度重なる南方戦線での敗退により、 本土空襲も時間の問題となり、高高度を飛来する連合国軍の爆撃機に備え、高性能の迎撃機を早期に完成させる必要が生まれました。ここに日独双方の思惑は一致し、すでに制空権も制海権も奪われた状態の中、 両軍の隠密潜水艦行動作戦により、日本からは、ドイツへの物資を運び、ドイツからは、現地日本人駐在員の撤収や新型高性能エンジンの技術資料などを受け取りに行きました。日本側の潜水艦による、この一連の作戦行動は、 「遣独潜水艦作戦(けんどくせんすいかんさくせん)」と呼ばれ、全部で5回行なわれました。不幸なことにそのうち完全に成功したのは一回だけ。ここに取り上げるのはその成功した作戦ではなくて、ほとんど失敗と言ってもいい 「第四次遣独船(帝国海軍潜水艦イ-29号による)」のハナシです。この時期、すでにドイツには、世界初の実用ジェット戦闘機:メッサーシュミットMe262シュヴァルベ(つばめの意)が存在し、 連合国軍の脅威になりかけておりましたので、何とか日本でもジェット戦闘機の国産化をと願い、この搭載エンジンたるユンカース社製Jumo004エンジンとともに、写真や図面その他の技術資料を取り寄せるために潜水艦を派遣しました。 しかし、連合国軍に計画は粉砕され、水没飛散したものの中から、かろうじてかき集められた資料のみで、ジェットエンジンとジェット戦闘機を作るハメになりました。この時同時に日本海軍はジェットも通り越して ロケット技術さえ試そうとしていましたので、やはりドイツでほぼ実用化されていたロケット機:メッサーシュミットMe163コメートの資料も搭載しておりましたが、こちらもほぼ散逸してしまったため、日本における開発は困難を極めました。
 このジェットエンジンを積んだ方は「試製橘花(きっか)」、ロケットエンジンを積んだ方は「試製秋水(しゅうすい)」と呼ばれ、終戦ギリギリまで開発は続けられました。「皇国二号兵器」の別称も与えられたジェット機 「橘花」は、その開発の最終局面では、本土を空襲しにくる連合国軍のB-29爆撃機に追いつき体当たり攻撃をしかける特別攻撃機の位置づけを与えられそうになっており、原型初飛行が1945年8月7日と終戦間際であったことが幸いして、 悲しい歴史を背負わずにすみました。その「橘花」に積まれた国産初の実用ジェットエンジン「ネ20型」こそ、東京石川島造船、現在のIHIが開発製造したものです。
とにもかくにも、戦時中にジェット機、ロケット機を曲がりなりにも飛ばすことが出来た、当時のドイツと日本の航空技術はたいしたものではありませんか(あれ?イタリアは?:笑)。

 そんな歴史あるタービン製造技術が数十年のちに、旧同盟国の同志イタリア人の製造する世界初のツインターボ市販車に生かされていると思うと歴史の不思議さを感じずにはおれません。


番外コラムその2
 ちょっとー、皆さん!ウイキペディアで「ツインターボ」って入れて見てみてくださいよー。載ってないんだよ、マセラティビトルボについて、マセラティの「マ」の字もビトルボの「ビ」の字も。おまけに、 グーグルで「世界初のツインターボ」って入れたら、ワタシがこの間書いたブログの中の文言よりも先に、トヨタツインカムエンジンについての記述が出て、それを見たらば、またビックリ!1986年デビューのGX71型 (マークⅡ・チェイサー・クレスタの三兄弟)GTツインターボが世界初のツインターボ市販車と、堂々と書いてある・・・。
・・・やっぱり、マセラティって日陰げの身なのね(ヨヨヨ:泣)。
 ワタシ、事情通の関係各位にもう一度資料をあたってもらいましたが、やはり、「マセラティが世界初」で間違いないことが判明いたしましたので、改めてご報告申し上げます。「マセラティビトルボこそ、 世界初のツインターボ市販車です。間違いありません(笑)」。しかもトヨタは5年もあとです。あしからず。


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(本題に戻って・・・)
 ビトルボ系マセラティのターボ本体は昨日のお話のように、日本のIHI製です。コレは、なにやら年代別に仕様違い(タービン形状や冷却方法の違い)があるようなのですが、きちんとした資料に当たったことがありませんので、 適当なコトは書きません。非シーケンシャルであることと、ジャーナル(メタル)軸受け(フローティングメタル方式)であることは間違いないと思いますが。
 とにかく、ほとんど問題が起きないんで、あんまりハズしたりバラシたりもないんです。タービン軸受けを冷却するための冷却配管からLLCが漏る(金属製配管腐食のため)トラブルが430で一例あったぐらいだよなあ。
 但し、キャブ期のビトルボでは、冷却方法の不備、当時高い粘度のオイルがポピュラーで無かったという理由に加え、なぜかメーカーやディーラーの推奨オイル交換時期が「10,000Km毎(左ドア内張りに貼ってあった コーションラベルにもしっかりと書いてある。もちろん日本語取扱説明書にも)」という常軌を逸したモノであったため、「白煙モウモウ」のクルマが続出してたらしいのですが、2.8リッターインジェクションモデル以降のものでは、 高性能エンジンオイルの管理をしっかりとやるだけで、まずは、トラブルフリーと云えます。少なくとも、当店では、モチュール300V(高粘度型)を用い、3,000Km~長くても5,000Kmでのエンジンオイル交換を この十数年に亘り推奨してきましたが、ビトルボエンジンにおける、ターボの焼損(焼きつき)トラブルは一例もありません。カムタイミングベルトやその関連に起因する、エンジン破損が一例も無いという事実とともに、 その専門店ゆえのビトルボマセラティ販売台数(分母)の多さ(実台数300台以上)から見れば、たまには、ダレかにホメて欲しい(笑)と思うもので、密かにマイクロ・デポが「誇り」としているところではあります。

 当初、オリジナルのキャブビトルボに装着されていたものは、インタークーラー未装着のターボユニットです。

 次にビトルボESが高性能バージョンとして設定された時にインタークーラーが初めて装着され、その時はエンジンの左右バンク上に、地面と水平に「乗っかる」ようなカタチでの搭載方法であり、ボンネットにはインタークーラー に空気を導入するための、いわゆる「NACAダクト(前方がスボまっていて後方が幅広くなった形状:外気を積極的に吸い込む)」が開けられて、より、スポーティーな外観になりました。しかし、このモデルはそうでなくても 整備性の悪いこのマシンを、インタークーラーのゾンザイな搭載方法により、いよいよ「いぢれなく:笑」しちゃったので、さすがにこれ一代でやめました。

 2.5リッター時代の最後に、インジェクションを装備、この時インタークーラーの取り付け位置が変更になり、車体最前方のラジエターのさらに前に並列して2基、取り付けられました。この搭載方法は2.8リッターになってからの、 228、222、430、スパイダーザガート、カリフ、などデ・トマソ期最後のV6モデル達にそのまま継承されていきました。で、この時期のものが、もっとも「熱的に」エンジンルーム内がシビアな状態になるといった 問題を抱えているわけです。このへん、もうちょっと詳しく説明いたしますと、モノコックボディ先端のラジエターコアサポート(ボディの構造部材の一つ)の下には、いちばん室内側から最前方に向かって、順に・・・、

・2基の大きな電動ファン
・ラジエター本体
・エアコンコンデンサ(コレについては、エアコンの説明時に詳解いたします。)
・インタークーラー(並列2基)

という構成になってます・・・って、どうやって冷えるのコレ?って感じ、分かって頂けますでしょうか(笑)。初めて、現在当店がシゴトを依頼している、「この道50年」のラジエター屋の社長に見せた時は、 「こりゃー、冷えないよー」と爆笑してましたっけ。現在でこそ、適正な「コア」を選定し、当店のマセラティではなんの問題も無くなっておりますが、こういった部分ひとつをとっても、デ・トマソマセラティを 日本で実用に供するには、対策が必要だったんですね(みーんな、アタリマエと思ってるみたいだけど:泣)。ナニシロ、このマシンの電動ファンは外気を社外に直接排出するんでは無くて、エンジンルーム内に吸い込んでいるんです。 しかーもー、インタークーラー→エアコンコンデンサ→ラジエターと3段も熱した外気を。で、エンジンルーム内に吸い込んだ熱気は、どこからというコトも無く、なんとなく、熱ーいエキゾーストマニホールドを「撫で」ながら、 さらに熱くなりつつ、エンジンルーム床下後方から、やっぱりなんとなく出て行くと、こういうコトになっております。だから、勢い良く電動ファンがブン回ってるビトルボマセラティは真夏など、暑くて近寄りがたいわけです。 SE以降の222や、430後期、スパイダーザガート最終、4V、カリフには「放熱ダクト(ビトルボESのとは向きが逆になってる、ESのは、エンジン上に寝そべるインタークーラーへの導入ダクト))付きエンジンフード」 が装備されておりますが、ハッキリ云ってほとんど実効性はありません。
 フィアット期に入る直前、シャマルにおいて、フロントバンパー下部左右のダクトからインタークーラーを冷やす方法論(よってインタークーラーはフロントバンパー後部に搭載)をようやく採用し、 上記の問題はほぼ解決をみましたので、ギブリやガンディーニのクアトロポルテにもこの搭載方法を選定しております。
 ちなみに、ガンディーニクアトロポルテV6車がビトルボエンジン搭載全車の中で、もっともエンジンルーム内の熱問題に関しては、ラクなのではないかと思います。

 ビトルボ系マセラティに代々装備されているインタークーラーは西ドイツ(当時)の「LANGERER&REICH(ホントは「A」の上に点々が付く)社」製、異物を飲み込んだり、 ブツけない限り、まーずコワれません。
 また、室内にある、「マセラティブーストコントロールユニット(ターボを制御するコンピューターユニット)」は、室内の湿気などによる経年変化で、ほんっとにマレですが、イカれることがあります。 でもホントにレア(笑)です。
 よって、ガンディーニのクアトロポルテのターボシステムはあんまり「ぶっ壊れない」と思っていいようですよ!これは、力強いこと。

 そんなこんなで、ようやく、ガンディーニ・クアトロポルテに纏わるエンジンのハナシ(学科授業:笑)がここで一段落です。次項からは、エンジン分解の実践編です。

クアトロポルテと暮らしてみませんか・・・エンジンについて⑨にホントは続くのですが、エンジンについて⑨からしばらく先のページまでは工事中のため現在閲覧できません(申しわけない!)。
とりあえず、そのまた先の当コーナー続きを見たい方は
クアトロポルテと暮らしてみませんか・・・パワーステアリングについてに続く
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